今回より、改めて遺産分割・遺留分の研究です。
初回は、
・遺産分割調停でできること、できないこと
・遺産の範囲
・相続人の範囲と相続分
・相続分の譲渡
などです。
基本的ですが、大切なことばかり。
これからますます相続件数が増えることは統計上はっきりしていますので、弁護士側もしっかりと備えておきましょう。
第72回 SUC三谷会 【遺産分割1】
第1 遺産分割総論
1 遺産分割とは
遺産分割とは、被相続人の死亡により共同相続人の遺産共有(民法898条)に属することとなった相続財産(遺産)について、各相続人の単独所有または物権法上の共有関係にするこという(民法909条)。
2 遺産分割調停・審判の流れ
協 議 ↓ |
|
調 停
↓ |
・調停申し立て(家事法49条1項、別表第二12) ・職権付調停(家事法274条1項) |
審 判
↓ |
・家事調停が不成立の場合、調停申立時に当該事項について家事審判の申立てがあったものとみなす(家事法272条4項)。 |
即時抗告 |
・審判の告知を受けたときから2週間(家事法86条1項)。 ・遺産分割審判に対する即時抗告期間について各当事者が審判の告知を受けた日からそれぞれ進行する(家事法86条2項)。 ・審判に対する即時抗告をする場合において、抗告状に原審の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、抗告人は、即時抗告の提起後14日以内に、これらを記載した書面を原裁判所に提出しなければならない(家事規則55条)。 |
3 遺産分割調停
(1) 対象となる遺産
①被相続人が相続開始時に所有し、②分割時にも存在する、③未分割の、④積極遺産。
(2) 調停の手順(段階的進行)
①相続人の範囲の確定
②遺産の範囲の確定
③遺産の評価
⑤遺産分割方法の決定
(3) 調停の手続きに関して
ア 中間合意調書
遺産の範囲(②)と遺産の評価(③)等につき、調停期日で一定の合意がなされたときは、その期日調書に合意内容を記録することが多い。
イ 電話会議システムの利用
当事者が遠隔地に居住していることその他相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、電話会議システムによって家事調停の手続の期日における手続(証拠調べを除く。)を行うことができる(家事法258条1項、54条1項準用)。
ウ 調停条項案の書面による受諾
当事者が遠隔地に居住していることその他の事由により出頭困難であると認められるときは、調停条項案の書面による受諾の方法により、調停の合意を成立させることができる(家事法270条1項)。
4 遺産分割の前提問題
(1) 相続人の範囲
戸籍の記載と実際の相続人の範囲とが一致しない場合に問題となる。
① 身分関係の形成に関する事項(婚姻取消し、離婚取消し、縁組取消し、離縁取消し、認知、認知の取消し及び嫡出否認など)
② 相続人たる地位の形成に関する事項(推定相続人排除及びその取消し)
③ 相続人の死亡に関する事項(失踪宣告及びその取消し)
④ 身分関係の確認に関する事項(婚姻無効、離婚無効、縁組無効、離縁無効及び親子関係不存在など)
→①~③については、判決または審判によるので、調停における合意の対象とする余地なし。
④については、前提問題として判断することもできるが、遺産分割調停をそのまま進行させずに、合意に相当する審判(家事法277条)または人事訴訟による解決が促される。
(2) 遺言書の効力又は解釈
ア 「相続させる」旨の遺言がある場合
特定の遺産について「相続させる」旨の遺言がされているときは、直ちに当該相続人に相続により所有権が帰属することになるため、遺産分割の対象となる遺産ではなくなる。
イ 遺産を特定の者に「遺贈」する旨の遺言がある場合
遺贈の対象となった財産は、遺産分割の対象となる遺産ではなくなる。
ウ 遺言の有効性に争いがある場合
遺言無効確認訴訟等で判断する必要があるので、遺産分割申立事件の取下げが促される。
エ 遺言の解釈に争いがある場合
民事訴訟により判断する必要があるので、遺産分割申立事件の取下げが促される。
(3) 遺産分割協議の効力
ア 遺産分割協議の効力に争いがある場合
遺産分割協議無効確認訴訟等で判断する必要があるので、遺産分割申立事件の取下げが促される。
イ 共同相続人の一人がなした遺産分割前の相続登記(共有登記)と遺産分割との関係
遺産分割が完了するまでの間、相続人の一人が勝手に遺産を処分しないようにするため、共同相続人の一人の単独申請であっても、共同相続人全員を登記権利者とし、各自が法定相続分を共有持分として登記申請手続をすることが認められている(保存行為とみなされる)。
(4) 遺産の帰属
遺産の帰属(預貯金の存否、預貯金及び現金の金額、不動産が遺産であるかどうか等)については、最終的には民事訴訟により確定されるべきものであるが、家庭裁判所が、審判手続において前提事項の存否を審理判断した上で、分割の処分を行なうことも差し支えない。もっとも、家庭裁判所は、遺産の帰属については、民事訴訟で確定するよう促している。
〈最大決昭和41年3月2日(民集第20巻3号360頁)〉
遺産分割の請求、したがって、これに関する審判は、相続権、相続財産等の存在を前提としてなされるものであり、それらはいずれも実体法上の権利関係であるから、その存否を終局的に確定するには、訴訟事項として対審公開の判決手続によらなければならない。しかし、そうであるからといって、家庭裁判所は、かかる前提たる法律関係につき当事者間に争いがあるときは、常に民事訴訟による判決の確定をまってはじめて遺産分割の審判をなすべきものであるというのではなく、審判手続において右前提事項の存否を審理判断したうえで分割の処分を行うことは少しも差支えないというべきである。
5 遺産分割に関連する付随問題
(1) 使途不明金
不法行為又は不当利得の問題であり、訴訟事項であるから、3回程度の調停期日で合意が得られない場合には、調停では現存する遺産のみを対象として進行される。
(2) 葬儀費用
葬儀費用は相続開始後に生じた債務であり、相続財産に関する費用ともいえないから、争いがある場合には民事訴訟手続で解決される。なお、香典は遺産分割の対象とならないが、当事者全員の合意により香典を考慮して調停を成立させることは可能である。
(3) 遺産管理費用
遺産管理費用(固定資産税、地代、家屋の修理費・改築費、火災保険料等)は、相続開始後に生じた債務負担の問題であるから、遺産とは別個の性質のものである。したがって、原則、民事訴訟手続により解決される。もっとも、遺産管理費用を遺産分割調停の手続の中で清算する旨の合意が相続人間であれば、遺産管理費用を考慮することができる。
なお、遺産管理費用は遺産ではないから、審判の対象とはならない。
(4) 遺産収益
遺産収益(相続開始後の賃料、配当金等)は、遺産とは別個の共同相続人間の共有財産であることを前提としつつ(最一小判平成17年9月8日)、当事者全員がこれを遺産分割の対象とする旨の合意をした場合には、遺産分割の対象に含めることができる(東京高決昭和63年1月14日)。
(5) 相続債務の整理・分担
相続人の一人が債務も全部負担する内容の協議が成立することがあるが、その場合であっても金融機関などの債権者が承諾しない限り、他の相続人が債務の負担を免れることはできない。
(6) 相続人固有の共有持分
被相続人の持分と相続人らの固有の共有持分を含めた解決は、調停でなければできない。
なお、相続人ら固有の持分の共有関係の解消は、民法上の共有物分割となり(民法256条)、その部分は審判手続には移行しない。
(7) 祭祀財産
祭祀財産(家系図、位牌、仏壇、墓石等)は、祖先の主宰者に帰属する(民897条)ので、遺産分割の対象とはならない。
第2 相続人の範囲
1 被相続人と相続人の「同時存在の原則」
相続人は、被相続人死亡時に生存していることを要する。
例外)胎児の出生擬制(民法886条)、代襲相続(民法887条2項、889条2項)
2 相続人の種類
(1) 血族相続人
ア 第1順位
被相続人の子(実子・養子を問わない)若しくは、その代襲相続人である直系卑属(民法887条1項、2項)。
イ 第2順位
被相続人の直系尊属(民法889条1項1号)。親等の異なる直系尊属の間では親等の近い者が相続資格を取得し、それ以外の直系尊属は相続資格を取得しない(民法889条1項1号ただし書)
ウ 第3順位
被相続人の兄弟姉妹(全血・半血を問わない)(民法889条1項2号)。
(2) 配偶者相続人
常に相続人となる(民法890条)。
注)内縁配偶者は特別縁故者として財産分与を受けるにとどまる(民法958条の3)。
3 相続人の資格の重複
(1) 養子としての相続権と孫としての代襲相続権の重複
例)孫を養子とした場合など
結論:重複して相続し、双方の相続分を取得することができる(昭和26年9月18日民事甲1881号民事局長電報回答)。
(2) 実子としての相続資格と養子としての相続資格の重複
例)婚外子を養子とした場合
結論:重複して相続せず、片方の相続分のみ取得することができる。
〈民法の一部改正(平成25年11月公布・施行)〉
非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた部分(改正前民法900条4号ただし書前半部分)を削除し、嫡出子と非嫡出子の相続分を同等にする。
第3 相続人の確定
1 相続権の剥奪
(1) 相続欠格(民法891条)
ア 欠格事由
①故意に被相続人、先順位・同順位の相続人を死亡するに至らせ、また至らせようとしてために刑に処せられた者(同条1号)。
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(同条2号)。
③詐欺・強迫により、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更することを妨げた者(同条3号)。
④詐欺・強迫により、被相続人が相続に関する遺言を作成・撤回・取消し・変更させた者(同条4号)。
⑤相続に関する被相続人の遺言書について偽造・変造・破棄・隠匿した者(同条5号)。
イ 効果
当然に相続権を失う(民法891条)。もっとも、欠格者の子は代襲相続人となり得る。
ウ 欠格事由の存否の判断
欠格事由の存否は、遺産分割の前提問題として処理され、訴訟手続(相続権又は相続分不存在確認訴訟)において判断される。
(2) 相続人の廃除
ア 廃除事由
① 廃除対象者が被相続人に対する虐待若しくは重大な侮辱をした場合
② 著しい非行があった場合
イ 廃除の方法
(ア) 生前廃除(民法892条)
被相続人が生存中に家庭裁判所に審判を申し立てる(家事39条、188条1項、別表第1の86項)。
(イ) 遺言廃除(民法893条)
遺言執行者が家庭裁判所に対し廃除の申し立てを行う(家事188条1項ただし書)。
ウ 効果
生前廃除の効果は審判の確定によって生じ、遺言廃除の効果は相続開始時に遡って生じる。もっとも、被廃除者の子は代襲相続人となり得る。
エ 廃除事由の存否の判断
廃除事由の存否は、遺産分割の前提問題として処理され、訴訟手続(相続権又は相続分不存在確認訴訟)において判断される。
2 相続の選択
(1) 単純承認(民法920条)
(2) 限定承認(民法922条)
(3) 相続の放棄(民法938条)
放棄する相続人は、自己のために相続が開始したことを知ったときから3か月以内に、家庭裁判所にその旨の申述をしなければならない(民法915条1項)。放棄する相続人は、最初から相続人でなかったものとして扱われるため(民法939条)、放棄者の直系卑属がいても、放棄者を代襲することはない。効力は絶対効で、不動産の場合、何人に対しても登記なくしてその効力を生じる。
第4 相続分
1 指定相続分
(1) 割合的指定
(2) 特定遺産の指定(「相続させる」旨の遺言)
(3) 遺留分を侵害する相続分の指定
相続分の指定については、遺留分に関する規定に違反することはできないが、このような相続分の指定も当然に無効ではなく、遺留分権利者の減殺請求により、侵害の限度で効力を失うものとして解されている。
2 法定相続分
相続人 |
配偶者の相続分 |
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昭和22年改正(昭和23.1.1~)
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昭和55年改正(昭和56.1.1~) |
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①配偶者と子 |
3分の1 |
2分の1 |
②配偶者と直系尊属 |
2分の1 |
3分の2 |
③配偶者と兄弟姉妹 |
3分の2 |
4分の3 |
※①~③の各順位内では、それぞれが均等の相続分を有するのが原則である(例外:半血兄弟姉妹の相続分は全血兄弟姉妹の半分である(民法900条4号ただし書後段))。
3 婚外子の相続分
〈民法の一部改正(平成25年11月公布・施行)〉
非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分の2分の1と定めた部分(改正前民法900条4号ただし書前半部分)を削除し、嫡出子と非嫡出子の相続分を同等にする。
〈最大決平成25年9月4日(民集67巻6号1320頁)〉
1 民法900条4号ただし書前段の規定は、遅くとも平成13年7月当時において、憲法14条1項に違反していた。
2 民法900条4号ただし書前段の規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反していたとする最高裁判所の判断は、上記当時から同判断時までの間に開始された他の相続につき、同号ただし書前段の規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判、遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではない。
4 相続分の変動
(1) 相続分の放棄
ア 意義
相続分の放棄とは、共同相続人がその相続分を放棄することである。
イ 効果
相続分の放棄は、相続人としての地位を失うことはなく、相続債務についての負担義務を免れない。相続分の放棄は、共有持分権を放棄する意思表示であり、相続分放棄者の相続分が他の相続人の相続分の割合で再配分される。
(2) 相続分の譲渡
ア 意義
相続分の譲渡とは、遺産全体に対する共同相続人の有する包括的持分又は法律上の地位を譲渡することである。相続分の一部譲渡もできる。
イ 効果
譲受人は、譲渡人が遺産の上に有する持分割合をそのまま承継取得し、積極財産のみならず債務も承継することになり、債権者との関係では債務引き受けとなる。
(3) 手続からの排除
ア 意義
家庭裁判所は、当事者となる資格を有しない者及び当事者である資格を喪失した者を職権で家事調停手続から排除することができる(家事法258条、43条準用)。
- 手続に関与したくない相続人は、相続分の譲渡又は放棄をした上で、その旨を家庭裁判所に届け出て、当該相続人を手続から排除する旨の裁判(決定)を受けることにより、当該手続に関与しないでよいことになる。
イ 手続
家庭裁判所が職権で排除する旨の裁判(決定)をする。裁判(決定)に対しては、即時抗告することができる(家事法43条2項)。
- 相続人が他の当事者を手続から排除したい場合には、家庭裁判所に対し排除の裁判の職権発動を促すことになる。
〈参考文献〉