未来創造弁護士法人

横浜(本店)と藤沢(支店)にある法律事務所で日々奮闘する弁護士とスタッフが、気の向いたときや機嫌のいいときに更新する事務所日記です。

【未来創造弁護士法人 3つのモットー】

1 依頼しなくてもOK 気軽に相談していただけます!
2 スピードは価値 早期解決を最優先します!
3 お客様の希望をじっくり聞きます!専門家の意見をしっかり伝えます!


【第103回 SUC三谷会】平成30年度重要判例解説

こんにちは、岩崎です。

令和1回目のSUCは、平成30年度重要判例解説を研究しました。

毎年この時期に出版されるジュリストの重要判例解説(重判)。

今回は、佐山弁護士が発表者となり、実務上役立つ判例をピックアップして解説をしてくれました。特に、民法、商法、労働法分野の重要判例が多かったです。

先輩弁護士からは、「なぜこの事案、この争点が、裁判で(事件によっては最高裁まで)争われることになったのか」という観点からのフォローもあり、理解が深まりました。

 

佐山先生作成のレジュメはこちら。

 

平成30年度重要判例解説

(ジュリスト臨時増刊2019年4月1531号)

 

1 改良住宅使用権の承継に市長の承認を要求し,使用権の当然相続を認めない市営住宅条例は住宅地区改良法29条1項及び公営住宅法48条に違反し,違法・無効とならないか

 

最判平成29年12月21日(行政法1)

 ・・・本件条例24条1項・・・の趣旨は,・・・改良住宅が,住宅地区改良事業の施行に伴い住宅を失った者等の居住の安定を図る趣旨のものであることを踏まえて,改良住宅の入居者死亡時における使用権の承継を死亡時同居者に限定したものと解することができる。そうすると,本件条例24条1項は,法の規定及びその趣旨に照らして不合理であるとは認められないから,法29条1項,公営住宅法48条に違反し違法,無効であるということはできない。

 

参照条文

住宅地区改良法29条1項(国の補助に係る改良住宅の管理及び処分)

第二十七条第二項の規定により国の補助を受けて建設された改良住宅の管理及び処分については、第三項に定めるもののほか、改良住宅を公営住宅法に規定する公営住宅とみなして、同法第十五条、第十八条から第二十四条まで、第二十五条第一項、第二十七条第一項から第四項まで、第三十二条第一項及び第二項、第三十三条、第三十四条、第四十四条、第四十六条並びに第四十八条の規定を準用する。ただし・・・(以下略)

公営住宅法48条(管理に関する条例の制定)

事業主体は、この法律で定めるもののほか、公営住宅及び共同施設の管理について必要な事項を条例で定めなければならない。

京都市市営住宅条例24条1項(入居の承継)

市営住宅の入居者が死亡し,又は当該市営住宅から退去した場合において,その死亡時又は退去時に当該入居者と同居していた者(入居承認に際して同居を認められた者又は前条の規定により承認を受けて同居している者(以下「同居者」という。)に限る。)は,別に定めるところにより,市長の承認を受けて,引き続き,当該市営住宅に居住することができる。

 

 

 

2 障害年金支分権の消滅時効厚生年金保険法36条所定の支払期到来時から進行するか,障害年金裁定時から進行するか

 

最判平成29年10月17日(行政法2)

上記支分権は,厚生年金保険法36条所定の支払期の到来により発生するものの,受給権者は,当該障害年金に係る裁定を受ける前においてはその支給を受けることができない。

しかし,障害年金を受ける権利の発生要件やその支払い時期,金額等については,厚生年金保険法に明確な規定が設けられており,裁定は,受給権者の請求に基づいて上記発生要件の存否等を公権的に確認するものにすぎないのであって・・・受給権者は,裁定の請求をすることにより,同法の定めるところに従った内容の裁定を受けて障害年金の支払いを受けられることとなるのであるから,裁定を受けていないことは,上記支分権の消滅時効の進行を妨げるものではないというべきである。

したがって,上記支分権の消滅時効は,当該障害年金に係る裁定を受ける前であっても,厚生年金保険法36条所定の支払期が到来した時から進行するものと解するのが相当である。

 

参照条文

会計法30条

金銭の給付を目的とする国の権利で、時効に関し他の法律に規定がないものは、五年間これを行わないときは、時効に因り消滅する。 国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。

会計法31条2項

金銭の給付を目的とする国の権利について、消滅時効の中断、停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき他の法律の規定がないときは、民法の規定を準用する。 国に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。

民法166条1項(消滅時効の進行等)

消滅時効は,権利を行使することができる時から進行する。

 

厚生年金保険法旧33条(裁定),36条(年金の支給期間及び支払期月),旧47条(受給権者)は割愛

 

 

3 滞納処分による建物差押え後に当該建物を賃借した賃借人は民法395条1項1号の「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たるか

 

最決平成30年4月17日(民法2)

・・・抵当権に対抗することができない賃借権が設定された建物が担保不動産競売により売却された場合において,その競売手続の開始前から当該賃借権により建物の使用又は収益をする者は,当該賃借権が滞納処分による差押えがされた後に設定されたときであっても,民法395条1項1号に掲げる「競売手続の開始前から使用又は収益をする者」に当たると解するのが相当である。なぜなら,・・・滞納処分手続は民事執行法に基づく競売手続と同視することができるものではなく,民法395条1項1号の文言に照らしても,同号に規定する「競売手続の開始」は滞納処分による差押えを含むと解することができないからである。

 

参照条文

民法395条1項

抵当権者に対抗することができない賃貸借により抵当権の目的である建物の使用又は収益をする者であって次に掲げるもの(次項において「抵当建物使用者」という。)は、その建物の競売における買受人の買受けの時から六箇月を経過するまでは、その建物を買受人に引き渡すことを要しない。

一 競売手続の開始前から使用又は収益をする者

 

 

4 被担保債権が免責許可決定の効力を受ける場合,元本が確定した根抵当権民法167条2項の消滅時効にかかるか,同法396条により消滅時効が進行しなくなるか

 

最判平成30年2月23日(民法3)

・・・民法396条は・・・その文理に照らすと,被担保債権が時効により消滅する余地があることを前提としているものと解するのが相当である。そのように解さないと,いかに長期間権利が行使されない状態が継続しても消滅することのない抵当権が存在することとなるが,民法が,そのような抵当権の存在を予定しているものとは考え難い。・・・そして,抵当権は,民法167条2項の「債権又は所有権以外の財産権」に当たるというべきである。・・・

したがって,抵当権の被担保債権が免責許可の決定の効力を受ける場合には,民法396条は適用されず,債務者及び抵当権設定者に対する関係においても,当該抵当権自体が,同法167条2項所定の20年の消滅時効にかかると解するのが相当である。・・・以上のことは,担保すべき元本が確定した根抵当権についても,同様に当てはまるものである。

 

参照条文

民法167条2項(債権等の消滅時効

  債権又は所有権以外の財産権は,二十年間行使しないときは,消滅する。

民法396条(抵当権の消滅時効

抵当権は,債務者及び抵当権設定者に対しては,その担保する債権と同時でなければ,時効によって消滅しない。

5 自動車割賦販売において留保所有権を代位取得した保証人は,当該自動車の登録名義を自己名義に変更しなくても別除権を行使できるか

 

最判平成29年12月7日(民法4,民訴法6)

自動車の購入者と販売会社との間で当該自動車の所有権が売買代金債権を担保するため販売会社に留保される旨の合意がされ,売買代金債務の保証人が販売会社に対し保証債務の履行として売買代金残額を支払った後,購入者の破産手続が開始した場合において,その開始の時点で当該自動車につき販売会社を所有者とする登録がされているときは,保証人は,上記合意に基づき留保された所有権を別除権として行使することができるものと解するのが相当である。・・・

 保証人は,主債務である売買代金債務の弁済をするについて正当な利益を有しており,代位弁済によって購入者に対して取得する求償権を確保するために,弁済によって消滅するはずの販売会社の購入者に対する売買代金債権及びこれを担保するため留保された所有権(以下「留保所有権」という。)を法律上当然に取得し,求償権の範囲内で売買代金債権及び留保所有権を行使することが認められている(民法500条,501条)。そして,購入者の破産手続開始の時点において販売会社を所有者とする登録がされている自動車については,所有権が留保されていることは予測し得るというべきであるから,留保所有権の存在を前提として破産財団が構成されることによって,破産債権者に対する不測の影響が生ずることはない。そうすると,保証人は,自動車につき保証人を所有者とする登録なくして,販売会社から法定代位により取得した留保所有権を別除権として行使することができるものというべきである。

6 自賠法16条1項の直接請求権について

①被害者は,労災保険給付受給後,未填補損害につき,労災保険給付により国が代位取得した直接請求権に優先して,自賠責保険金額全額の支払いを自賠責保険会社に求めることができるか

自賠責保険会社の履行遅滞時期に関する自賠法16条の9第1項の「必要な期間」は請求認容判決確定日に経過するか否か

 

最判平成30年9月27日(民法7,商法11)

①について

被害者が労災保険給付を受けてもなお塡補されない損害(以下「未塡補損害」という。)について直接請求権を行使する場合は,他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され,被害者の直接請求権の額と国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で自賠法16条1項に基づき損害賠償額の支払を受けることができるものと解するのが相当である。

・・・自賠法16条1項は,同法3条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときに,被害者は少なくとも自賠責保険金額の限度では確実に損害の塡補を受けられることにしてその保護を図るものであるから(同法1条参照),被害者において,その未塡補損害の額が自賠責保険金額を超えるにもかかわらず,自賠責保険金額全額について支払を受けられないという結果が生ずることは,同法16条1項の趣旨に沿わない・・・

・・・労災保険法12条の4第1項は,第三者の行為によって生じた事故について労災保険給付が行われた場合には,その給付の価額の限度で,受給権者が第三者に対して有する損害賠償請求権は国に移転するものとしている。同項が設けられたのは,労災保険給付によって受給権者の損害の一部が塡補される結果となった場合に,受給権者において塡補された損害の賠償を重ねて第三者に請求することを許すべきではないし,他方,損害賠償責任を負う第三者も,塡補された損害について賠償義務を免れる理由はないことによるものと解される。労働者の負傷等に対して迅速かつ公正な保護をするため必要な保険給付を行うなどの同法の目的に照らせば,政府が行った労災保険給付の価額を国に移転した損害賠償請求権によって賄うことが,同項の主たる目的であるとは解されない。したがって,同項により国に移転した直接請求権が行使されることによって,被害者の未塡補損害についての直接請求権の行使が妨げられる結果が生ずることは,同項の趣旨にも沿わない・・・

②について

自賠法16条の9第1項は,同法16条1項に基づく損害賠償額支払債務について,損害賠償額の支払請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは遅滞に陥らない旨を規定する。この規定は,自賠責保険においては,保険会社は損害賠償額の支払をすべき事由について必要な調査をしなければその支払をすることができないことに鑑み,民法412条3項の特則として,支払請求があった後,所要の調査に必要な期間が経過するまでは,その支払債務は遅滞に陥らないものとし,他方で,その調査によって確認すべき対象を最小限にとどめて,迅速な支払の要請にも配慮したものと解される。

そうすると,自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいうと解すべきであり,その期間については事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断するのが相当である。

 

参照条文

自動車損害賠償保障法3条(自動車損害賠償責任)

自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし・・・(以下略)。

自動車損害賠償保障法16条1項(保険会社に対する損害賠償額の請求)

第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。

自動車損害賠償保障法16条の9第1項(第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払についての履行期)

 保険会社は、第十六条第一項の規定による損害賠償額の支払の請求があつた後、当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間が経過するまでは、遅滞の責任を負わない。

労働者災害補償保険法12条の4第1項

政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によつて生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する。

 

 

7 一次相続の共同相続人間における相続分の譲渡は,二次相続の遺留分減殺請求にかかる民法903条1項の「贈与」に当たるか

 

最判平成30年10月19日(民法9)

・・・相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,譲渡人から譲受人に対し経済的利益を合意によって移転するものということができ・・・遺産の分割が相続開始の時に遡ってその効力を生ずる(民法909条本文)とされていることは,以上のように解することの妨げとなるものではない。

したがって,共同相続人間においてされた無償による相続分の譲渡は,譲渡に係る相続分に含まれる積極財産及び消極財産の価額等を考慮して算定した当該相続分に財産的価値があるとはいえない場合を除き,上記譲渡をした者の相続において,民法903条1項に規定する「贈与」に当たる。

 

参照条文

民法903条1項(特別受益者の相続分)

共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

 

8 不動産は商法521条の「物」に当たり,商事留置権の担保目的物となり得るか

 

最判平成29年12月14日(商法1)

・・・民法は,同法における「物」を有体物である不動産及び動産と定めた上(85条,86条1項,2項),留置権の目的物を「物」と定め(295条1項),不動産をその目的物から除外していない。一方,商法521条は,同条の留置権の目的物を「物又は有価証券」と定め,不動産をその目的物から除外することをうかがわせる文言はない。他に同条が定める「物」を民法における「物」と別異に解すべき根拠は見当たらない。

また,商法521条の趣旨は,商人間における信用取引の維持と安全を図る目的で,双方のために商行為となる行為によって生じた債権を担保するため,商行為によって債権者の占有に属した債務者所有の物等を目的物とする留置権を特に認めたものと解される。不動産を対象とする商人間の取引が広く行われている実情からすると,不動産が同条の留置権の目的物となり得ると解することは,上記の趣旨にかなうものである。

以上によれば,不動産は,商法521条が商人間の留置権の目的物として定める「物」に当たると解するのが相当である。

 

参照条文

民法85条(定義)

この法律において「物」とは、有体物をいう。

民法86条(不動産及び動産)

1 土地及びその定着物は、不動産とする。

2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

民法295条1項(留置権の内容)

他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。

商法521条(商人間の留置権

商人間においてその双方のために商行為となる行為によって生じた債権が弁済期にあるときは、債権者は、その債権の弁済を受けるまで、その債務者との間における商行為によって自己の占有に属した債務者の所有する物又は有価証券を留置することができる。ただし、当事者の別段の意思表示があるときは、この限りでない。

9 自動車保険契約について

①車両損害保険金は物的損害全体を填補するものか

②保険会社が被害者の損害賠償請求権を代位取得する要件                            

 

東京高判平成30年4月25日(商法12)

①について

交通事故の被害者が損害保険会社との間で締結した自動車保険契約に基づいて受ける保険給付は,特段の事情がない限り,交通事故によって生じた当該自動車に関する損害賠償請求権全体を対象として支払われるものと解するのが当事者の意思に合致し,被害者の救済の見地からも相当であるから,車両損害保険条項に基づいて支払われた車両損害保険金は,当該交通事故に係る物的損害の全体を填補するものと解するのが相当である。

②について

 ・・・本件保険契約の被保険者である被上告人会社に本件事故の発生について過失がある場合には,車両損害保険条項に基づき被保険者が被った損害に対して保険金を支払った被上告人・・・は,被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)が保険金請求権者に確保されるように,支払った保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回るときに限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である・・・。

 

最判平成24年2月20日

本件約款によれば,訴外保険会社は,交通事故等により被保険者が死傷した場合においては,被保険者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく算定される額の保険金を支払うものとされているのであって,上記保険金は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する趣旨・目的の下で支払われるものと解される。上記保険金が支払われる趣旨・目的に照らすと,本件代位条項にいう「保険金請求権者の権利を害さない範囲」との文言は,保険金請求権者が,被保険者である被害者の過失の有無,割合にかかわらず,上記保険金の支払によって民法上認められるべき過失相殺前の損害額(以下「裁判基準損害額」という。)を確保することができるように解することが合理的である。

そうすると,上記保険金を支払った訴外保険会社は,保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。

 

 

10 仮執行宣言付判決後の弁済を,控訴審において任意弁済として抗弁主張することができる場合とはどのような場合か

 

阪高判平成29年7月25日(民訴法3)

 上記一の認定事実によれば、控訴人は、本件支払をした後、・・・控訴審第二回口頭弁論期日において、請求原因事実をすべて認め、本件訴訟の原審で提出していた抗弁のうち弁済以外の抗弁をすべて撤回し、弁済以外の抗弁の提出及び民事訴訟法二六〇条二項所定の申立てを行わなかったことが認められる。

〔当該認定・判断〕によれば、控訴人は、本件において、本件請求債権が本件支払前に存在したことを、もはや争っていないものと認めることができる。そして、このことを前提とすれば、本件では、昭和四七年判決にいう「全くの任意弁済であると認めうる特別の事情」があるといえるから、本件支払は、仮執行宣言による支払又はそれと同視されるものではなく、本件請求債権に対する弁済の効力を有するものと認めるのが相当である。

 

最判昭和47年6月15日

被告が、仮執行宣言付判決に対して上訴を提起し、その判決によつて履行を命じられた債務の存否を争いながら、同判決で命じられた債務につきその弁済としてした給付は、それが全くの任意弁済であると認めうる特別の事情のないかぎり、同法一九八条二項にいう「仮執行ノ宣言ニ基キ被告カ給付シタルモノ」にあたると解するのが相当である。けだし、仮執行宣言付判決を受けた被告が、一方で、同判決によつて履行を命じられた債務の存否を上訴審で争いながら、他方で、みずから右債務の存否を争う実益を失わせるような任意弁済をすることは、特別の事情のないかぎり、ありえないはずであり、このことは、その仮執行によつて強制的に取りあげられた場合や仮執行に際し執行官に促されて弁済した場合にとどまらず、仮執行宣言付判決を受けたのちに被告が弁済をした場合一般についていいうることだからである。そして、前記の事実関係のもとにおいては、他に原審の確定する事実、すなわち、本件弁済にあたり交付された領収証が当事者双方の代理人である弁護士が関与して作成されたものでありながら、これに特段の留保文言の記載がなく、かつ、右弁済に際し執行機関の関与および執行正本の交付等がされていないとの事実があつても、いまだ被告のした本件給付が全くの任意弁済であると認めうる特別の事情があるとするには足りないものと解せられる。

 

参照条文

民事訴訟法260条2項(仮執行の宣言の失効及び原状回復等)

本案判決を変更する場合には、裁判所は、被告の申立てにより、その判決において、仮執行の宣言に基づき被告が給付したものの返還及び仮執行により又はこれを免れるために被告が受けた損害の賠償を原告に命じなければならない。

11 差押債権の取立金を債権差押命令の申立書に記載しなかった申立日翌日以降の遅延損害金に充当することができるか

 

最決平成29年10月10日(民訴法4)

本件取扱いは,請求債権の金額を確定することによって,第三債務者自らが請求債権中の遅延損害金の金額を計算しなければ,差押債権者の取立てに応ずべき金額が分からないという事態が生ずることのないようにするための配慮・・・〔であり〕・・・本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,第三債務者の負担について上記のような配慮をする限度で,請求債権中の遅延損害金を申立日までの確定金額とすることを受け入れたものと解される。

 そうすると,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者は,債権差押命令に基づく差押債権の取立てに係る金員の充当の場面では,もはや第三債務者の負担に配慮をする必要がないのであるから,上記金員が支払済みまでの遅延損害金に充当されることについて合理的期待を有していると解するのが相当であり,債権者が本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをしたからといって,直ちに申立日の翌日以降の遅延損害金を上記金員の充当の対象から除外すべき理由はないというべきである。

したがって,本件取扱いに従って債権差押命令の申立てをした債権者が当該債権差押命令に基づく差押債権の取立てとして第三債務者から金員の支払を受けた場合,申立日の翌日以降の遅延損害金も上記金員の充当の対象となると解するのが相当である。

東京地裁では,請求債権中の遅延損害金につき,申立日までの確定金額を債権差押命令申立書に記載させる取扱い(本件取扱い)がされていた。

 

 

12 株券不発行株式に対する強制執行手続中,配当留保供託がされた状態で債務者の破産手続開始決定がされた場合,当該強制執行手続は失効するか(破産法42条2項本文適用の有無)

 

最決平成30年4月18日(民訴法5)

株券が発行されていない株式に対する強制執行の手続において,当該株式につき売却命令による売却がされた後,配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において,その供託の事由が消滅して供託金の支払委託がされるまでに債務者が破産手続開始の決定を受けたときは,当該強制執行の手続につき,破産法42条2項本文の適用があるものと解するのが相当である。

株券が発行されていない株式に対する強制執行の手続においては,執行裁判所は,当該株式につき売却命令による売却がされた場合,配当等を実施しなければならないとされている(民事執行法167条1項,166条1項2号)。そして,配当表記載の債権者の配当額について配当異議の訴えが提起されたために上記配当額に相当する金銭の供託がされた場合において,その供託の事由が消滅したときは,裁判所書記官が供託金について配当等の実施としての支払委託を行うことが予定されているのであって(民事執行法167条1項,166条2項,91条1項7号,92条1項,民事執行規則145条,61条,供託規則30条1項),上記供託金は,上記支払委託がされるまでは,配当等を受けるべき債権者に帰属していないということができる。そうすると,この場合における上記強制執行の手続は,売却命令により執行官が売得金の交付を受けた時にはもとより,その後も上記支払委託がされるまでは終了しておらず,それまでの間に債務者が破産手続開始の決定を受けたときは,破産法42条2項本文の適用があるものと解することができる。

 

参照条文

破産法42条2項本文(他の手続の失効等)

前項に規定する場合には、同項に規定する強制執行、仮差押え、仮処分、一般の先取特権の実行及び企業担保権の実行の手続並びに外国租税滞納処分で、破産財団に属する財産に対して既にされているものは、破産財団に対してはその効力を失う。

 

 

13 第三債務者が差押債務者に対する弁済後に,当該弁済を対抗できない差押債権者に対して更なる弁済をした場合,二度目の弁済は破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」として偏頗行為否認の対象になるか

 

最判平成29年12月19日(民訴法7)

破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」とは,破産者の意思に基づく行為のみならず,執行力のある債務名義に基づいてされた行為であっても,破産者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものであれば,これに含まれると解すべきである・・・。しかるに,債権差押命令の送達を受けた第三債務者が,差押債権につき差押債務者に対して弁済をし,これを差押債権者に対して対抗することができないため(民法481条1項参照)に差押債権者に対して更に弁済をした後,差押債務者が破産手続開始の決定を受けた場合,前者の弁済により差押債権は既に消滅しているから,後者の弁済は,差押債務者の財産をもって債務を消滅させる効果を生ぜしめるものとはいえず,破産法162条1項の「債務の消滅に関する行為」に当たらない。

したがって,上記の場合,第三債務者が差押債権者に対してした弁済は,破産法162条1項の規定による否認権行使の対象とならないと解するのが相当である。

 

参照条文

破産法162条1項(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)

次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。

一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。

イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。

 

 

14 連帯保証契約の締結が民事再生法127条3項の無償行為否認の対象となるためには当該契約締結時に再生債務者が債務超過であったことを要するか

 

最判平成29年11月16日(民訴法8)

・・・民事再生法127条3項は,再生債務者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為等を否認することができるものとし,同項に基づく否認権行使について,対象となる行為の内容及び時期を定めるところ,同項には,再生債務者が上記行為の時に債務超過であること又は上記行為により債務超過になることを要件とすることをうかがわせる文言はない。そして,同項の趣旨は,その否認の対象である再生債務者の行為が対価を伴わないものであって再生債権者の利益を害する危険が特に顕著であるため,専ら行為の内容及び時期に着目して特殊な否認類型を認めたことにあると解するのが相当である。そうすると,同項所定の要件に加えて,再生債務者がその否認の対象となる行為の時に債務超過であること又はその行為により債務超過になることを要するものとすることは,同項の趣旨に沿うものとはいい難い。

したがって,再生債務者が無償行為等の時に債務超過であること又はその無償行為等により債務超過になることは,民事再生法127条3項に基づく否認権行使の要件ではないと解するのが相当である。

参照条文

民事再生法127条3項(再生債権者を害する行為の否認)

再生債務者が支払の停止等があった後又はその前六月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、再生手続開始後、再生債務者財産のために否認することができる。

 

 

 

15 有期契約労働者の手当等格差と労働契約法20条の適用関係について

①手続等格差が労働契約法20条に違反する場合,有期契約労働者は無期契約労働者と同等の労働条件に基づき差額賃金請求が可能か

②労働契約法20条「期間の定めがあることにより」とは,契約期間と手当等格差との間にどの程度の因果関係を必要とするか

③労働契約法20条「不合理と認められるもの」の判断方法

 

最判平成30年6月1日(労働法9)

①について

同条は,有期契約労働者について無期契約労働者との職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であり,文言上も,両者の労働条件の相違が同条に違反する場合に,当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなる旨を定めていない。

そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が同条に違反する場合であっても,同条の効力により当該有期契約労働者の労働条件が比較の対象である無期契約労働者の労働条件と同一のものとなるものではないと解するのが相当である。

※したがって,無期契約労働者と同等の労働条件に基づき差額賃金請求は不可能。ただし,不法行為に基づく相当額の損害賠償請求は可能か。

②について

・・・期間の定めがあることと労働条件が相違していることとの関連性の程度は,労働条件の相違が不合理と認められるものに当たるか否かの判断に当たって考慮すれば足りるものということができる。

そうすると,同条にいう「期間の定めがあることにより」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が期間の定めの有無に関連して生じたものであることをいうものと解するのが相当である。

※本件では,有期か無期かで適用される就業規則が分かれるため該当。

③について

同条にいう「不合理と認められるもの」とは,有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのが相当である。

 

参照条文

※後掲

16 定年後再雇用制度における有期契約労働者の賃金格差について

①労働契約法20条の不合理性の判断に際し,「その他の事情」として定年後再雇用であることを斟酌してもよいか

②格差の不合理性の判断方法

 

最判平成30年6月1日(労働法10)

①について

定年制は,使用者が,その雇用する労働者の長期雇用や年功的処遇を前提としながら,人事の刷新等により組織運営の適正化を図るとともに,賃金コストを一定限度に抑制するための制度ということができるところ,定年制の下における無期契約労働者の賃金体系は,当該労働者を定年退職するまで長期間雇用することを前提に定められたものであることが少なくないと解される。これに対し,使用者が定年退職者を有期労働契約により再雇用する場合,当該者を長期間雇用することは通常予定されていない。また,定年退職後に再雇用される有期契約労働者は,定年退職するまでの間,無期契約労働者として賃金の支給を受けてきた者であり,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けることも予定されている。そして,このような事情は,定年退職後に再雇用される有期契約労働者の賃金体系の在り方を検討するに当たって,その基礎になるものであるということができる。

そうすると,有期契約労働者が定年退職後に再雇用された者であることは,当該有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かの判断において,労働契約法20条にいう「その他の事情」として考慮されることとなる事情に当たると解するのが相当である。

②について

労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合,個々の賃金項目に係る賃金は,通常,賃金項目ごとに,その趣旨を異にするものであるということができる。そして,有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,当該賃金項目の趣旨により,その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。

そうすると,有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては,両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく,当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。

 

 

 

 

 

参照条文

労働契約法20条

有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 

 

17 人身保護請求について

①人身保護法2条1項等の「拘束」の判断基準

②ハーグ子奪取条約実施法に基づく返還命令が確定している場合に,子を同命令に違反して監護・拘束をすることは人身保護規則4条の「顕著な違法性」に該当するか

 

最判平成30年3月15日(国際私法1)

①について

 意思能力がある子の監護について,当該子が自由意思に基づいて監護者の下にとどまっているとはいえない特段の事情のあるときは,上記監護者の当該子に対する監護は,人身保護法及び同規則にいう拘束に当たると解すべきである・・・。

・・・当該子による意思決定がその自由意思に基づくものといえるか否かを判断するに当たっては,基本的に,当該子が上記の意思決定の重大性や困難性に鑑みて必要とされる多面的,客観的な情報を十分に取得している状況にあるか否か,連れ去りをした親が当該子に対して不当な心理的影響を及ぼしていないかなどといった点を慎重に検討すべきである。

②について

国境を越えて日本への連れ去りをされた子の釈放を求める人身保護請求において,実施法に基づき,拘束者に対して当該子を常居所地国に返還することを命ずる旨の終局決定が確定したにもかかわらず,拘束者がこれに従わないまま当該子を監護することにより拘束している場合には,その監護を解くことが著しく不当であると認められるような特段の事情のない限り,拘束者による当該子に対する拘束に顕著な違法性があるというべきである。

 

参照条文

人身保護法2条1項

法律上正当な手続によらないで、身体の自由を拘束されている者は、この法律の定めるところにより、その救済を請求することができる。

人身保護規則3条(拘束及び拘束者の意義)

法及びこの規則において、拘束とは、逮捕、抑留、拘禁等身体の自由を奪い、又は制限する行為をいい、拘束者とは、拘束が官公署、病院等の施設において行われている場合には、その施設の管理者をいい、その他の場合には、現実に拘束を行つている者をいう。

人身保護規則4条(請求の要件)

法第二条の請求は、拘束又は拘束に関する裁判若しくは処分がその権限なしにされ又は法令の定める方式若しくは手続に著しく違反していることが顕著である場合に限り、これをすることができる。但し、他に救済の目的を達するのに適当な方法があるときは、その方法によつて相当の期間内に救済の目的が達せられないことが明白でなければ、これをすることができない。