未来創造弁護士法人 Blog

東京と横浜にある法律事務所で日々奮闘する弁護士と事務局が、気の向いたときや機嫌のいいときに更新する事務所日記です。

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【第6回SUC三谷会】 平成15年度判例研究

地震の影響でご報告が遅れましたが、3月10日に第6回SUC三谷会が開催されました。 月例の勉強会も6回目。世の中では時間にルーズな弁護士も散見される中、この勉強会は開始時刻に全メンバーが必ずそろっているのが自慢です。

今回は、初の試みとして、司法修習生にレジュメの作成、発表をお願いしました。フレッシュな知識とみなぎるパワーですばらしい発表となりました。

SUC三谷会 平成15年度重判 平成23年3月10日

行政法> ・行政法4:転入届の受理と市区町村の審査権(住民基本台帳法) (事案) 宗教団体アレフの信者であるXが,名古屋市のB区からC区への教団施設に転居した事実を記載した転居届を提出したが,C区長Yがこれを受理しなかった。そこで,Xは不受理処分の取消し及び国家賠償訴訟を求めて訴えを提起。 (判旨) 「住民基本台帳に関する法令の規定及びその趣旨によれば,住民基本台帳は,これに住民の居住関係の事実を合致した正確な記録をすることによって,住居の居住関係の公証,選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするものであるから,市町村長は,住民基本台帳法の適用が排除される者以外の者から法22条の規定による転入届があった場合には,その者に新たに当該市町村(指定都市にあっては区)の区域内に定めた住所を定めた事実があれば,法定の届出事項に係る事由以外の事由を理由として転入届を受理しないことは許されず,住民票を作成しなければならないというべきである。 ・地方自治法上の地方公共団体の役割⇔法22条,施行令11条その他の規定

民法> ・民法1:公序の変化と法律行為の効力(公序良俗違反の基準時) (事案) 証券会社が1985年に締結した損失保証・利益保証契約に基づく請求が認められるかに関し,同契約が公序良俗違反かが問題となった(行為時では公序良俗違反ではないが,判決時では公序良俗違反 ※1990年に締結された損失保証契約は公序に反するという判例がある。) (判旨) 「法律行為が公序に反することを目的とするものであるとして無効になるかどうかは,法律行為がされた時点の公序に照らして判断すべきである。 けだし,民事上の法律行為の効力は,特別の規定がない限り,行為当時の法令に照らして判定すべきものであるが(最大決昭和35・4・18),この法理は,公序が法律行為の後の経緯によって変化した場合においても同様に考えるべきであり,法律行為の後の経緯によって公序の内容が変化した場合であっても,行為時に有効であった法律行為が無効となったり,無効であった法律行為が有効になったりすることは相当でないからである。」 ・法律行為の効力が問題とならない場合でも,履行請求の可否は信義則や権利濫用等の一般条項との関係で別途問題

民法4:不動産共有者の1人による単独での持分移転登記抹消登記手続請求 (事案) X1,X2,およびB・Cが本件土地を共有していた(共同相続による共有)。BはYに対する負債を抱えており,Yの指示に従って相続を原因として各共同相続人の持分を4分の1とする所有権移転登記を行ったうえ,自己の持分につき代物弁済を原因とするYへの持分移転登記をしたが,代物弁済は虚偽表示ないし公序良俗違反により無効であった(第1審の認定)。X1・X2はYに対して持分移転登記の抹消を求めた。 (判旨) 「不動産の共有者の一人は,その持分権に基づき,共有不動産に対する妨害排除請求ができるので,当該不動産について全く実体法上の権利を有しないのに持分権移転登記を経由している者に対して,単独で,その抹消登記手続を求めることができる。」

民法5:ATMによる預金の払戻しと民法478条の適用 (事案) 盗まれた預金通帳が使用されて現金自動入出機(ATM)から,預金の払戻しがなされた場合に,銀行が民法478条による弁済の効力を主張することができるか(銀行が無過失であるといえるための要件)が問題となった事案。 (判旨) 「債権の準占有者に対する機械払の方法(暗証番号を登録した預金者が通帳又はキャッシュカードを使用し暗証番号を入力すれば,現金自動入出機によって,預金の払戻しができる方法)による預金の払戻しにつき銀行が無過失であるというためには,払戻しの際に機械が正しく作動したことだけでなく,銀行において,預金者による暗証番号の管理に遺漏のないようにさせるため当該機械払の方法により預金の払戻しが受けられる旨を預金者に明示すること等を含め,機械払システムの設置管理の全体について,可能な限度で無権限者による払戻しを廃除し得るよう注意義務を尽くしていたことを要する。」

民法7:地代増額改定特約と借地借家法11条1項 (事案) バブル経済期に締結された土地賃貸借契約において,賃料を3年毎に見直すこととし,「第1回目の見直し時は当初賃料の15%増,次回以降は3年毎に10%増額する」という特約が合意された。しかし,その後,地価が契約時の40%以下にまで下落したことから,借主が特約の効力を争い,さらに賃料の減額請求をした事案。 (判旨) ①条文の趣旨及び強行法規性 本条1項は,長期的,継続的な借地関係では,一度約定された地代等が経済事情の変動により不相当となることも予想されるので,公平の観点から,当事者がその変化に応じて地代等の増減を請求できるようにしたものと解するのが相当である。この規定は,地代等不増額の特約がある場合を除き,契約の条件にかかわらず,地代等減額請求権を行使できるとしているのであるから,強行法規としての実質を持つものである。 ②地代等自動改定特約の効力 地代等自動改定特約は,その地代等改定基準が借地借家法11条1項の規定する経済事情の変動等が示す指標に基づく相当なものである場合には,その効力を認めることができる。 ③その後の事情の変化 …当初は効力が認められるべきであった地代等改定特約であっても,その地代基準を定めるに当たって基礎となっていた事情が失われることにより,同特約によって地代等の額を定めることが借地借家法11条1項の規定の趣旨に照らして不相当なものとなった場合には,これを適用して地代等改定の効果が生ずるとすることはできない。 ④地代(増)減額請求の可否 また,このような事情の下においては,当事者は同行に基づく地代増減請求権の行使を同特約によって妨げられるものではない。

民法8:いわゆるサブリース契約における賃料減額請求の帰趨(条文:借地借家法32条) (事案) Xは,Yに一括賃貸する予定で,銀行の融資やYからの敷金等で資金を調達て地上21階建ての賃貸用高層ビルを建築し,これをYに対して自らの使用部分を除いて一括賃貸した。バブル経済の崩壊により賃料水準が下がったため,Yは賃料減額をすべき旨の意思表示を繰り返し行った。 Xは減額請求の効力を認めず,未払賃料等の支払いをYに対して請求した。 (判旨) 「いわゆるサブリース契約は,建物の賃貸借契約であり,借地借家法が適用され,本条も適用される。本条1項は強行規定であって(32条1項が適用される),賃料自動増額特約によってその適用を排除することはできない。  (サブリースであることに伴う事情は)本件契約の当事者が,前記の当初賃料額を決定する際の重要な要素となった事情であるから,衡平の見地に照らし,借地借家法32条1項の規定に基づく賃料減額請求の当否(同項所定の賃料増減額請求権行使の要件充足の有無)及び,相当賃料額を判断する場合に,重要な事情として十分考慮されるべきである。」 ⇒考慮要素を示して原審差戻し

民法10:開業医の転送義務違反と後遺症が残らなかった相当程度の可能性 (事案) 急性脳症により重い後遺症が残った患者Xが,最初に診察したかかりつけの開業医Yが適切な医療機関に転送する義務を怠ったとして損害賠償請求をした事案。 (判旨) 「患者の診療に当たった医師が,過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において,その転送義務に違反した行為と患者の重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも,右の転送が行われ,同医療機関において適切な検査,治療等の医療行為を受けていたらならば,患者に重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性が証明されるときは,医師は,患者が右の相当程度の可能性を侵害されたことによって被った損賠を賠償すべき不法行為責任を負う。」 ※相当程度の可能性の侵害に関しては最判平成12・9・22がある。

民法12:大学主催の講演会に参加を申し込んだ学生のプライバシーの侵害 (事案) 大学が主催する中華人民共和国国家主席の講演会への参加申込者の学籍番号・氏名・住所・電話番号が記載された名簿の写しを警視庁に提出したことにつき,参加申込者がプライバシー侵害を理由に損害賠償請求をした事案。 (判旨) 「大学が講演会の主催者として参加者を募る際に収集した参加申込書としての学生の学籍番号,氏名,住所及び電話番号に係る情報は,参加申込者のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となる。 大学がこの情報を参加申込者に無断で警察に開示した行為は,大学が開示についてあらかじめ参加申込者の承諾を求めることが困難であった特別の事情がうかがわれないという事実関係の下では,参加申込者のプライバシーを侵害するものとして不法行為を構成する。」

民法13:テレビ報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについての判断基準 (事案) ダイオキシンによる所沢産の葉物野菜の汚染を報道したニュース番組(テレビ朝日の「ニュースステーション」)について,所沢の農家が野菜等に対する信頼を傷つけられ,精神的・財産的な被害を被ったとして損害賠償や謝罪広告を求めた事案。 (判旨) 「テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当であるが,テレビジョンの性質から,その番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容,画面に表示された文字情報の内容並びに放送全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきである。」

民法14:複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する1つの交通事故における過失相殺(条文:722条) (事案) A社の被用者Bの運転する普通貨物自動車は,Y社の被用者Cが路側帯から車線にはみ出して駐車させた普通貨物自動車を避けるために,中央線からはみ出て南から北に進行したところ,反対車線を進行中のD運転の普通自動車(制限速度違反)と衝突した。 この事故でAとDに損害が生じたが,Dの損害について自動車共済契約に基づきAに代わって賠償したX組合が代位取得する求償権の範囲が問題となった。なお,本件での過失割合は,B,C,Dの各過失割合は4対1対1である。 (判旨) 「複数の加害者の過失及び被害者の過失が競合する一つの交通事故において,その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定することができるときには,絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について,加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う。」

<商法> ・商法3:定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められていない場合における取締役報酬請求権(条文:会社法361条) (事案) 株式会社の取締役が昭和61年7月分から平成3年7月分までの合計4480万円の報酬を受け取っていたが,定款に報酬を定めた規定や株主総会全員の同意もなかった。報酬を受けたことが商法269条に違反するなどと主張し,会社が取締役に対して,商法261条1項5号に基づき損賠賠償を求めて訴えを提起した。 (判旨) 「株式会社の取締役については,定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ,具体的な報酬請求権は発生せず,取締役が会社に対して報酬を請求することはできないというべきである。けだし,商法269条は,取締役の報酬額について,取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止するために,これを定款又は株主総会の決議で定めることとし,株主の自主的な判断にゆだねているからである。」 ※取締役側は報酬相当額の不当利得返還請求権との相殺の抗弁を主張

・商法4:新株発行不存在の訴えの出訴期間(条文:会社法829条 ※会社法で新設) (事案) 新株発行による変更登記の日から6か月経過後に新株不存在確認の訴えが提起された事案で,出訴期間につき,新株発行無効の訴えに準じて6か月とすべきかが問題となった。 (判旨) 「新株発行不存在確認の訴えは,新株発行無効の訴えに準じて認められるのであるから,その性質に反しない限り新株発行無効の訴えに関する規定を類推適用すべきであるが,新株発行の不存在はこれを前提とする訴訟においていつでも主張することができるから,新株発行不存在確認の訴えの出訴期間を制限しても,同期間の経過により新株発行の存否が終局的に確定することにはならないのであり,新株発行の効力を早期に確定させるために設けられた出訴期間に関する規定を類推適用する合理的な根拠を欠く。したがって,新株発行不存在確認の訴えには,出訴期間の制限はない。」

商法7:地震保険契約締結の際の情報提供・説明義務 (事案) 阪神・淡路大震災によって原告らの所有または占有する建物・家財が全焼する損害が発生した。家財及び建物につき,大震災発生前に,保険会社(被告)との間で火災保険契約を締結していたが,それには地震等によって生じた損害(自身などによる延焼・拡大損害を含む)に対して,保険金を支払わない旨をいわゆる「地震免責条項」があった。本件火災損害は地震免責条項に該当する損害であった。 原告らは,火災保険契約に基づく火災保険金の支払いを求め,予備的請求として①地震保険を付帯しない旨の有効な申出をしていないから,地震保険契約が締結されることになるとして,地震保険金の支払いを求め,②被告に地震保険に関する事項の情報提供・説明義務の懈怠により,不法行為債務不履行または契約締結上の過失に基づき,財産上の損害及び精神的苦痛に対する慰謝料を内容とする損害賠償請求をした。 (判旨)※損害賠償請求について 「地震保険に加入するか否かについての意思決定は,生命,身体等の人格的利益に関するものではなく,財産的利益に関するものであることにかんがみると,仮に保険会社からの情報提供や説明に不十分,不適切な点があったとしても,特段の事情が存しない限り,これをもって慰謝料請求発生を肯認し得る違法行為とはいえない。」

民事訴訟法> 民訴1:退任した農業協同組合の理事に対して組合が提起する訴えについて組合を代表する権限を有する者(条文:会社法386条1項,民訴37条) (判旨) 「会社法386条1項が,会社と取締役との間の訴訟の代表権を監査役に与えている趣旨がなれ合い訴訟の防止による会社の利益の侵害防止にあるとする判例の趣旨に照らせば,退任した取締役に対し在任中の義務違反を理由に損害賠償請求をするときにはなれ合いのおそれはなく,会社につき代表権を有するのは代表取締役であり,右損害賠償請求権についての株主のよる提訴請求に基づき会社を代表して訴えを提起する場合の会社の代表者を監査役とする会社法386条2項は,この解釈の妨げとはならない。同条を準用する農業組合法35条の5第5項の解釈としても同様である。」

労働法> ・労働法2:出向命令と期間延長の有効性(条文:労働契約法14条,民法625条1項) (事案) 原告Xらは,Y会社に雇用されており,出向命令発令時には生産業務鉄道輸送部門の職務に従事していた。出向に関して,Y社には就業規則に規定があり,労働協約では,社外勤務となった場合の出向期間や労働条件について詳細に定められていた(社外勤務協定)。 原告は出向命令によりN運輸に出向し,3度にわたり出向が延長された。 この各出向命令の無効確認を求めたのが本件。 (判旨) 「ある事業所における特定の業務を協力会社である別会社に業務委託するに伴い,その委託された業務に従事していた労働者に出向が命じられた場合において,入社時及び出向発令時の就業規則に社外勤務条項(出向条項)があり,また当該労働者に適用される労働協約にも同様の社外勤務条項(出向条項)があり,さらに労働協約である社外勤務協定において,出向労働者の利益に配慮した詳細な規定が設けられていたという事情の下では,会社は労働者の個別的な同意なしに出向を命じることができる。 出向は,その期間が長期化した場合でも,出向元との労働契約関係の存在が形骸化していなければ,直ちに転籍と同視して個別的同意を要するとまではいえない。 当初3年間の出向を3度にわたり延長する本件出向措置には合理性があり,これにより労働者が著しい不利益を受けるものともいえないので権利濫用とはいえない。」

労働法3:周知手続が採られていない就業規則の効力(条文:労働契約法7条,労基106条,労規則52の2) (事案) 原告は懲戒解雇をされたが,その当時において懲戒の事由と種別を定めた就業規則の周知がなされていない可能性があった。そこで,懲戒解雇の効力が問題となった。 (判旨) 「使用者が労働者を懲戒するためには,あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして,就業規則が法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには,その内容を適用していることを要するものというべきである。」 ⇒就業規則の届出の事実を認定したのみで,その内容をセンター勤務の労働者に周知させる手続が採られていることを認定しないままに懲戒解雇が有効であるとした原審を破棄し,差戻した。

労働法4:JRの採用差別の不当労働行為性 (事案) JR各社合同の設立委員会が採用基準を定めた上で,国鉄の職員の中から応募のあった者を選抜してJRに承継される職員が決められた。しかし,採用率については,各組合間に顕著な差異があったため,ある組合が,不採用は不当労働行為であるとして労働委員会に救済申立てをした。 (判旨) 「労働組合法7条1項本文は,……雇入れにおける差別的取扱が前者(※労働組合の活動に対する解雇などの不利益取扱い)の類型に含まれる旨を明示的に規定しておらず,雇入れの段階と雇入れの後の段階とに区別を設けたものと解される。そうすると,雇入れの拒否は,それが従前の雇用関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り,本条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらない。」