未来創造弁護士法人 Blog

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【第8回SUC三谷会】 平成17年重要判例研究

今回は、平成17年度の重要判例について、当事務所の長田弁護士にレポートをお願いしました。 問題の所在がしっかり押さえられていたため、分かりやすい発表となり、大変勉強になりました。

SUC三谷会 第8回 平成17年度重判

2011.5.12 担当 長田 誠

行政法3 原子炉設置許可段階における安全審査の合理性 (最決平成17年5月30日)(原子炉等規制法) 【事案】 1983年に総理大臣が動燃に対し、「もんじゅ」について原子炉設置許可を行ったことから、Xら(周辺住民)が処分の無効確認訴訟を提起。差戻後の控訴審において無効確認判決が出たことから、国が上告。 【争点】 原子炉設置許可の段階における安全審査は、どの範囲か。 【判旨】 原子炉等規制法の構造に照らすと、原子炉設置の許可の段階の安全審査においては、当該原子炉施設の安全性に関わる事項のすべてを対象とするものではなく、その基本設計の安全性に関わる事項のみを対象とする。

民法3 動産売買先取特権に基づく物上代位と目的債権の譲渡 (最判平成17年2月22日)(民法304条1項但し書き) 【事案】 A→B動産売買。B→Y転売。平成14年3月1日、Bが破産宣告を受け、X1(管財人)→Y動産売掛代金債権(本件債権)請求訴訟提起。その後、X1→X2債権譲渡(同15年2月4日通知)。X2が訴訟引き受け。他方、Aは、動産売買先取特権に基づく物上代位として本件債権を差押えた(同15年5月1日、差押え命令がY送達)。 【争点】 動産売買先取特権に基づく物上代位と目的債権譲渡の優劣関係 【判旨】 民304条1項但し書きは、先取特権者が物上代位権を行使するには「その払い渡し又は引き渡しの前に」差押えをすることを要する旨規定しているところ、この規定は、抵当権とは異なり公示方法が存在しない動産売買の先取特権については、物上代位の目的債権の譲受人等の第三者の利益を保護する趣旨を含むというべき。よって、動産売買の先取特権者は、物上代位の目的債権が譲渡され、第三者に対する対抗要件が備えられた後においては、目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。

民法4 抵当権に基づく妨害排除請求 (最判平成17年3月10日)(民法369条) 【事案】 平成3年5月8日、AがXのために、本件建物及び敷地に抵当権を設定するとともに、停止条件付賃借権設定仮登記をした。同4年12月18日、A→B本件建物賃貸。B→Y転貸。同8年8月6日、Aが事実上倒産したことから、同10年7月6日、X、抵当権実行及び競売の申し立て、停止条件付賃借権の本登記手続をした上で、Yに対し賃借権侵害を理由とする明渡しと賃料相当損害金の支払いを求める訴えを提起。 【争点】 抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けて占有する者に対する抵当権に基づく妨害排除請求の可否 【判旨】 所有者以外の第三者が抵当不動産を不法占有することにより、抵当不動産の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態があるときは、抵当権者は、所有者に対して抵当不動産を適切に維持または保存するよう求める請求権保全するため、423条の法意に従い、所有者の不法占拠者に対する妨害排除請求権を代位行使することができる(最判平成11年11月24日)。そして、抵当権設定登記後に抵当不動産の所有者から占有権原の設定を受けてこれを占有する者についても、その占有権原の設定に抵当権の実行としての競売手続を妨害する目的が認められ、その占有により抵当不動産の交換価値の実現が妨げられて抵当権者の優先弁済請求権の行使が困難となるような状態にあるときは、抵当権者は、当該占有者に対し、抵当権に基づく妨害排除請求として、右状態の排除を求めることができる。この場合、所有者において抵当不動産を適切に維持管理することが期待できない場合には、抵当権者は、占有者に対し、直接自己への抵当不動産の明渡しを求めることができる。

民法5 1個の抵当権が担保する数個の債権のうちの1個の債権の保証人による代位弁済(最判平成17年1月27日)(民法502条1項、249条) 【事案】 X→A、①②③債権を有し、それらを担保するため甲不動産に抵当権。Y→X、③債権について連帯保証。Aにつき会社更生手続が開始され、Y→X、③債務を全額代位弁済、弁済による代位を原因として、抵当権の一部を譲り受けた。管財人→XY、甲不動産を売却し、①②と③の按分割合により弁済。X→Y、Xには優先弁済権があるとして、不当利得返還請求権に基づき、弁済を受けられなかった金額の支払いを求めて訴えを提起。 【判旨】 不動産を目的とする1個の抵当権が数個の債権を担保し、そのうち1個の債権のみについての保証人が当該債権に係る残債務全額に付き代位弁済した場合には、当該抵当権は債権者と保証人の準共有となり、当該抵当不動産の換価による売却代金が被担保債権の全てを消滅させるに足りないときは、債権者と保証人は、両者間に特段の合意がない限り、上記売却代金に付き、債権者が有する残債権額と保証人が代位によって取得した債権額に応じて案分して弁済を受けるべき。なぜなら、債権者は、保証人が代位によって取得した債権について、完全な満足を得ており、保証人が当該債権について債権者に代位して売却代金から弁済を受けることによって不利益を被るものとはいえず、また、保証人が自己の保証をしていない債権についてまで債権者の優先的な満足を受忍しなければならない理由はない。

民法8 建物賃借人が負担すべき補修費用の範囲 (最判平成17年12月16日)(民法90条ほか) 【判旨】 建物の賃借人にその賃貸借において生ずる通常損耗についての原状回復義務を負わせるのは、賃借人に予期しない特別の負担を課すことになるから、賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか、仮に賃貸借契約書で明らかでない場合には、賃貸人が口頭により説明し、賃借人がその旨を明確に認識し、それを合意の内容としたものと認められるなど、その旨の特約が明確に合意されていることが必要。

民法10 共同相続した賃貸不動産の賃料債権の帰属と遺産分割の効力 (最判平成17年9月8日)(民法909条) 【判旨】 遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。上記賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。

民法11 遺産分割前に死亡した相続人が有していた第1次被相続人の遺産についての権利 (裁決平成17年10月11日) 【事案】 平成7年12月7日にA死亡(第1次相続)、相続人は配偶者B、子X、Y1、Y2。同10年4月10日、Bが死亡(第2次相続)、相続人は子X、Y1、Y2。なお、B固有の財産を対象とする遺産分割は本件では生じない。 【判旨】 遺産は、相続人が数人ある場合において、それが当然に分割されるものでないときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属し、この共有の性質は、基本的には民法249条以下に規定する共有と性質を異にするものではない。そうすると、共同相続人が取得する遺産の共有持分権は、実体上の権利であって遺産分割の対象となる。

商法3 総会決議を経ずに支払われた役員報酬につき事後の総会決議で有効とし得るか (最判平成17年2月15日)(会社法361条、387条1項) 【判旨】 商法269条(会社法361条)、279条1項(会387条1項)が、株式会社の取締役及び監査役の報酬について、定款にその額の定めがないときは、株主総会の決議によって定めると規定している趣旨目的は、お手盛りの弊害防止と監査役の独立性を保持し、ひいては役員報酬額の決定を株主の自主的な判断に委ねるところにある。そして、その目的は、事後的に総会決議を経ることによっても達成できる。よって、当該決議の内容等に照らして上記規定の趣旨目的を没却するような特段の事情があると認められない限り・・・役員報酬の支払いは株主総会の決議に基づく適法有効なものになる。

民訴5 第三者異議の訴えの原告についての法人格否認の法理の適用 (最判平成17年7月15日)(民執38条) 【事案】 A(ゴルフ場を開設した会社)は、関連会社であるC、Dとの間で、信託契約を締結し、ゴルフ場の敷地について信託を原因としてAの持分38分の36をDに移転(A、D、Cの役員構成はほぼ同じ)。C→X、ゴルフ場の運営業務委託。Yら(ゴルフ場の会員)は、Aに対し、預託金返還請求訴訟を提起し勝訴。この債務名義に基づき、ゴルフ場の現金、芝刈り機等を差押えた。これに対し、Xが、差押え物件は運営業務委託契約に基づき、Xらが所有又は占有しているものとして、第三者異議の訴えを提起。 【判旨】 (判決の既判力及び執行力の範囲については、法人格否認の法理を適用して判決に当事者として表示されていない会社にまでこれを拡張することは許されないが、)第三者異議の訴えは、債務名義の執行力が原告に及ばないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものではなく、執行債務者に対して適法に開始された強制執行の目的について原告が所有権その他目的物の譲渡又は引き渡しを妨げる権利を有するなど強制執行による侵害を受忍すべき地位にないことを異議事由として強制執行の排除を求めるものである。そうすると、第三者異議の訴えについて、法人格否認の法理の適用を排除すべき理由はない。

民訴6 扶養義務等に係る定期金債権に基づく診療報酬債権の差押え (裁決平成17年12月6日)(民執151条の2第2項) 【判旨】 保健医療機関、指定医療機関等の指定を受け病院又は診療所が支払基金に対して取得する診療報酬債権は、基本となる同一の法律関係に基づき継続的に発生するものであり、民事執行法151条の2第2項に規定する「継続的給付に係る債権」に当たる。

民訴7 破産債権を自働債権とし、破産宣告後に期限が到来し又は停止条件が 成就した債権を受動債権とする相殺の可否(最判平成17年1月17日) (破産法67条2項後段、71条1項1号) 【事案】 X(破産者Aの破産管財人)→Y(保険会社)、Aが破産宣告前にYと締結していた複数の積立普通傷害保険契約について、①破産宣告後に満期が到来した満期返戻金、②破産宣告後にXが解約したことに基づく解約返戻金の支払いを求める訴えを提起。Y→X、Aが破産宣告前にYにした不法行為に基づく損害賠償請求権(破産債権)を自働債権とし、①②債権を受動債権とする相殺の主張。 【争点】 ②の債権を受動債権とする相殺は、「破産手続開始後に破産財団に対して債務を負担したとき」(破産法71条1項1号)に該当し、許されないのではないか(①は67条2項後段により許される)。 【判旨】 破産債権者は、破産者に対する債務がその破産宣告のときにおいて期限付き又は停止条件付である場合には、特段の事情のない限り、期限の利益又は停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく、破産宣告後に期限が到来しまたは条件が成就したときにも、旧破産法99条後段(現67条2項後段)の規定により、その債務に対応する債権を受動債権とし、破産債権を自働債権として相殺することができる。また、その債務が破産宣告のときにおいて停止条件付である場合には、停止条件不成就の利益を放棄したときだけでなく、破産宣告後に停止条件が成就したときにも同様に相殺することができる。

刑法7 離婚係争中の父による子の連れ去りと未成年者略取罪 (裁決平成17年12月6日)(刑法224条) 【判旨】 未成年者略取罪の構成要件に該当する。また、子の監護養育上必要性はなく、行為態様も粗暴であり、略取後の監護養育について確たる見通しもなかったことからすると、違法性も阻却されない。

労働法2 反復更新された有期労働契約の更新拒否と育児休業 (東京高判平成17年1月26日) →法改正により解決(育児休業法5条)

労働法6 契約期間途中の解雇と雇い止めの効力 (大阪地判平成17年3月30日)(民法628条) 【争点】 民法628条より緩やかな解除事由を定める労働契約は有効か。 【判旨】 民法628条は、期間の定めのある雇用契約について、「やむを得ない事由」があるときには解除できる旨定めていることからすれば、同条は、有期契約期間中における当事者の解除権を保障したものといえる。よって、解除事由をより厳格にする合意は無効であるが、緩やかにすることは許される。雇用期間を信頼した労働者保護の要請は、解雇権濫用法理を適用することにより考慮する。

労働法7 帰省先から赴任先住居への移動と労災保険法7条2項の通勤の概念 (岐阜地判平成17年4月21日)(労働者災害補償保険法7条2号) 【事案】 単身赴任者Kが自宅に帰宅後、翌日の勤務のために赴任先の社宅に向かう途中に事故死した。 【判旨】 「通勤」とは、労働者が、①就業に関し、②住居と就業場所との間を、③合理的な経路及び方法により往復することをいい、④業務の性質を有するものを除くとされている(法7条2項)。②住居から住居への移動ということになり、通勤の定義には直ちに当てはまるものではないが、帰省先→社宅で1泊→就業場所という一連の移動を、住居から就業場所への移動と捉えうる、①実家から社宅へ勤務前日に移動を行うことは社会通念上相当であり、Kは帰省先住居から赴任先住居への勤務前日の移動を現に反復・継続して行っており、Kの移動が翌日の勤務のための移動であると認められる、③④も充たすので、「通勤」に該当し、本件事故は「通勤災害」に該当する。 →法改正により解決(法7条2項3号)