【第70回SUC三谷会】 平成27年度重要判例研究
毎年恒例の重要判例研究を行いました。
70回を数えるSUC三谷会ですが、元々は重要判例研究からスタートしたんです。
判例は(我々の都合を考えずに)どんどん新しくなるので、常にキャッチアップしなければなりません。
もちろん、全ては覚えきれませんから、自分の感覚と結論が違う判例だけを特に意識するのが上手なインプット法だと思います。
当日のレジュメは以下の通りです。
平成27年度重要判例解説
(ジュリスト臨時増刊2015年4月1492号)
【民法】
5 事前求償権を被保全債権とした仮差押えによる事後求償権の消滅時効の中断
◎事前求償権を被保全債権とする仮差押えは、事後求償権の消滅時効をも中断する効力を有する。(最判平成27年2月27日、判タ1412号129頁)
(時効の中断事由)
第百四十七条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認
(委託を受けた保証人の求償権)
第四百五十九条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。
2 第四百四十二条第二項の規定は、前項の場合について準用する。
(委託を受けた保証人の事前の求償権)
第四百六十条 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。
二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。
三 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。
6 異議をとどめないでした指名債権譲渡の承諾と譲受人の主観的事情
◎債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において、譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても、このことについて譲受人に過失があるときには、債務者は、当該事由をもって譲受人に対抗することができる。(最判平成27年6月1日)
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)
第四百六十八条 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。
7 不法行為により死亡した者の相続人が遺族補償年金を受けた場合の損益相殺的調整の方法
◎被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け、または支給受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するにあたり、上記の遺族補償年金につき、その填補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきである。(最判平成27年3月4日)
9 投資信託受益権の共同相続開始後に発生した元本償還金の共同相続人への帰属
◎共同相続された委託者指図型投資信託の受益権につき、相続開始後に元本償還金又は収益分配金が発生し、それが預かり金として上記受益権の販売会社における被相続人名義の口座に入金された場合、上記預り金の返還を求める債権は当然に相続分に応じて分割されることはなく、共同相続人の一人は、上記販売会社に対し、自己の相続分に相当する金員の支払いを請求することができない。(最判平成26年12月12日)
【商法】
1 共有に属する株式の議決権行使
◎共有に属する株式について会社法106条本文の規定に基づく指定及び通知を欠いたまま当該株式についての権利が行使された場合において、当該権利の行使が民法の共有に関する規定に従ったものでないときは、株式会社が同条但書の同意をしても、当該権利の行使は、適法となるものではない。
共有に属する株式についての議決権の行使は、当該議決権の行使をもって直ちに株式を処分し、または株式の内容を変更することになるなどの特段の事情のない限り、株式の管理に関する行為として、民法252条本文により、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決せられる。(最判平成27年2月19日)
(共有者による権利の行使)
第百六条 株式が二以上の者の共有に属するときは、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、株式会社に対し、その者の氏名又は名称を通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができない。ただし、株式会社が当該権利を行使することに同意した場合は、この限りでない。
(共有物の管理)
民法第二百五十二条 共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
4 非上場会社による第三者割当てと「特ニ有利ナル発行価額」
◎非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的な資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、商法(平成17年法律第87号による改正前のもの)280条ノ2第2項にいう「特ニ有利ナル発行価額」に当たらない。(最判平成27年2月19日)
(募集事項の決定)
第百九十九条 株式会社は、その発行する株式又はその処分する自己株式を引き受ける者の募集をしようとするときは、その都度、募集株式(当該募集に応じてこれらの株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない。
一 募集株式の数(種類株式発行会社にあっては、募集株式の種類及び数。以下この節において同じ。)
二 募集株式の払込金額(募集株式一株と引換えに払い込む金銭又は給付する金銭以外の財産の額をいう。以下この節において同じ。)又はその算定方法
三 金銭以外の財産を出資の目的とするときは、その旨並びに当該財産の内容及び価額
四 募集株式と引換えにする金銭の払込み又は前号の財産の給付の期日又はその期間
五 株式を発行するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項
2 前項各号に掲げる事項(以下この節において「募集事項」という。)の決定は、株主総会の決議によらなければならない。
3 第一項第二号の払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は、前項の株主総会において、当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければならない。
4 種類株式発行会社において、第一項第一号の募集株式の種類が譲渡制限株式であるときは、当該種類の株式に関する募集事項の決定は、当該種類の株式を引き受ける者の募集について当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議を要しない旨の定款の定めがある場合を除き、当該種類株主総会の決議がなければ、その効力を生じない。ただし、当該種類株主総会において議決権を行使することができる種類株主が存しない場合は、この限りでない。
5 募集事項は、第一項の募集ごとに、均等に定めなければならない。
5 株主提案権の行使と権利濫用
◎いわゆる「株主提案権」を侵害されたという株主の会社ないし取締役に対する損害賠償請求に一部理由があるとした原判決は、会社が当該株主の提案した議案の一部を招集通知に記載しなかったとしても、その提案が株主提案権を濫用するものであったと認められる判示の事実関係の下においては、その全部に理由がなく、これを取り消すべきものである。(東京高判平成27年5月19日)
(株主提案権)
第三百三条 株主は、取締役に対し、一定の事項(当該株主が議決権を行使することができる事項に限る。次項において同じ。)を株主総会の目的とすることを請求することができる。
2 前項の規定にかかわらず、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができる。この場合において、その請求は、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までにしなければならない。
第三百五条 株主は、取締役に対し、株主総会の日の八週間(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前までに、株主総会の目的である事項につき当該株主が提出しようとする議案の要領を株主に通知すること(第二百九十九条第二項又は第三項の通知をする場合にあっては、その通知に記載し、又は記録すること)を請求することができる。ただし、取締役会設置会社においては、総株主の議決権の百分の一(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権又は三百個(これを下回る数を定款で定めた場合にあっては、その個数)以上の議決権を六箇月(これを下回る期間を定款で定めた場合にあっては、その期間)前から引き続き有する株主に限り、当該請求をすることができる。
6 退職慰労金支給議案の不上程
◎退任した取締役・監査役(一部は従業員を兼務)が会社及び同社の取締役に対し会社との間に退職慰労金を株主総会の決議を経て支給する旨の合意が成立していたのに同社が当該合意を履行しないと主張して債務不履行ないし不法行為に基づき退職慰労金相当額の損害賠償を求めた請求は、
会社において、内規に基づき、退任した役員に対して退職慰労金の支給をする旨の慣行があったため、当該慣行に基づき、取締役会で退職慰労金不支給議案を株主総会に上程する決議がされたからといって、同議案の上程は撤回されていて、同決議によって両者の間に退職慰労金の支給合意が成立したことを認めることができない判示の事実関係のもとでは、
会社の取締役ないし監査役については、定款または株主総会の決議によって、報酬の金額が定められなければ、具体的な報酬請求権は発生しないので、取締役が会社に対し報酬を請求することはできないところ、
この理は、内規で退職慰労金の支給基準が定められ、これまで退職慰労金の支給がされてきた慣行がある場合であっても、同様であるだけでなく、同議案の上程を撤回したことが違法であるとも認められない以上、その理由がない。
(平成27年7月21日)
【民訴法】
6 間接占有者に対する建物退去土地明渡しの債務名義に基づく間接強制の許否
◎債務名義が間接占有者に対する建物退去土地明渡しの請求権を表示したものであることや、建物の当初及び現時点の占有状況等記録からうかがわれる事情によれば、本件において、間接強制決定をすることはできない。(最判平成27年6月3日)
(間接強制)
第百七十二条 作為又は不作為を目的とする債務で前条第一項の強制執行ができないものについての強制執行は、執行裁判所が、債務者に対し、遅延の期間に応じ、又は相当と認める一定の期間内に履行しないときは直ちに、債務の履行を確保するために相当と認める一定の額の金銭を債権者に支払うべき旨を命ずる方法により行う。
2 事情の変更があつたときは、執行裁判所は、申立てにより、前項の規定による決定を変更することができる。
3 執行裁判所は、前二項の規定による決定をする場合には、申立ての相手方を審尋しなければならない。
4 第一項の規定により命じられた金銭の支払があつた場合において、債務不履行により生じた損害の額が支払額を超えるときは、債権者は、その超える額について損害賠償の請求をすることを妨げられない。
5 第一項の強制執行の申立て又は第二項の申立てについての裁判に対しては、執行抗告をすることができる。
6 前条第二項の規定は、第一項の執行裁判所について準用する。
第百七十三条 第百六十八条第一項、第百六十九条第一項、第百七十条第一項及び第百七十一条第一項に規定する強制執行は、それぞれ第百六十八条から第百七十一条までの規定により行うほか、債権者の申立てがあるときは、執行裁判所が前条第一項に規定する方法により行う。この場合においては、同条第二項から第五項までの規定を準用する。
2 前項の執行裁判所は、第三十三条第二項各号(第一号の二及び第四号を除く。)に掲げる債務名義の区分に応じ、それぞれ当該債務名義についての執行文付与の訴えの管轄裁判所とする。
【刑法】
5 同時傷害の特例における暴行と傷害との因果関係および暴行の機会の同一性
◎傷害致死の事案においても、同時傷害の特例(刑法207条)は、死因となった「傷害」と各人の「暴行」との因果関係を問題とするものであり、これが不明な場合には、本特例の適用により、この傷害について共同正犯が成立し、その結果、各人に傷害致死罪の共同正犯が成立することとなる(名古屋高判平成27年4月16日)。
(同時傷害の特例)
第二百七条 二人以上で暴行を加えて人を傷害した場合において、それぞれの暴行による傷害の軽重を知ることができず、又はその傷害を生じさせた者を知ることができないときは、共同して実行した者でなくても、共犯の例による。
【刑訴法】
1 勾留要件の判断に対する審査の方法
○勾留の要件である罪証隠滅のおそれ・逃亡のおそれについては、具体的・現実的可能性が認められることを要する(最決平成26年11月17日、最決平成27年10月22日)。
3 公判前整理手続で明示された主張内容を更に具体化する被告人質問等を制限することの可否
◎「公訴事実記載の日時には犯行場所におらず、自宅ないしその付近にいた」旨のアリバイ主張が明示されたが、それ以上に具体的な主張は明示されず、裁判所も釈明を求めなかったなどの本件公判前整理手続の経過に照らすと、前記主張の内容に関し弁護人が更に具体的な供述を求める行為及びこれに対する被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することはできない。(裁決平成27年5月25日)
5 被害者等が被害状況を再現した結果を記録した書面の証拠能力
○被害者及び目撃者が被害発生現場において、両名が被害発生時に乗車していた自動車を用いて被害状況・目撃状況を再現しており、再現内容の真実性を度外視してもなお再現時の状況を立証することに意味を見出しうる本件の事情のもとにおいても、実質的においては被害者や再現者が目撃したとおりの犯罪事実の存否が要証事実になると認められる場合には、刑訴法321条3項の要件のみならず、321条1項3号所定の要件を満たさなければ証拠能力が認められない(最判平成27年2月2日)。
【憲法】
2 性同一性障害者に対するゴルフクラブ入会拒否の違法性
○性別適合手術を受け「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」に基づき性別取扱い変更の審判を受けた入会希望者について株主会員制のゴルフ場が行った、性別変更を理由とする入会拒否および株式譲渡の承認拒否は、憲法14条1項及び国際人権B規約26条の規定の趣旨に照らし、社会的に許容しうる限界を超えるものとして違法である。(東京高判平成27年7月1日)
◎西宮市営住宅条例第46条1項…の規定のうち、入居者が暴力団員であることが判明した場合に市営住宅の明渡しを請求することができる旨を定める部分は、憲法14条1項及び憲法22条1項に違反しない。(最判平成27年3月27日)